少し前まで、休みの日も自分からボールを持って外に出ていた子が、最近は練習の話になると黙ってしまう。「バスケ、もう好きじゃないかも」とぽつりと言われて、どう返せばいいのか分からなかった。そんな夜を過ごしている保護者の方もいると思います。
僕は札幌の3拠点(真駒内・南3条・新琴似)で、100名の子どもたちを見ているバスケットボールスクールのコーチです。バスケ歴は27年。13年の会社員生活を経て独立しました。
「好きだったのに、嫌いになった」。この変化は、最初から興味がなかった子とは少し事情が違います。今日はそこを、僕が現場で見ていることから書いてみます。
「好き」が「やらなきゃいけないもの」に変わる瞬間
子どもがバスケを嫌いになる時、多くの場合、バスケそのものが嫌になったわけではないと僕は感じています。
変わったのは、バスケの「重さ」です。
始めたころは、ただ楽しくてやっていた。それが、学年が上がって練習が増え、試合に出る・出ないが決まり、「もっと頑張れば上に行ける」と周りが期待し始める。そうやって少しずつ荷物が増えていくと、好きだったはずのものが、いつのまにか「やらなきゃいけないもの」に変わってしまうんです。
本人もその変化をうまく言葉にできません。だから出てくるのは「なんか嫌」「行きたくない」くらいの短い言葉になります。
僕がまず確かめるのは、次のようなことです。
練習の量や回数が、ここ半年で急に増えていないか
試合に出る・出ないで、本人の扱いが大きく変わっていないか
練習のあとに、「評価される時間」が毎回待っていないか
どれか一つでも当てはまるなら、嫌いになったのはバスケではなく、バスケの周りに積み上がった「重さ」のほうかもしれません。
帰り道が「評価の時間」になっていないか
三つ目の「評価される時間」について、僕自身の話をさせてください。
僕がミニバスを始めたのは小学5年生のころです。最初は本当に楽しくて、ただバスケットが好きでやっていました。今振り返って思うのは、親から自分のプレーについて厳しく言われた記憶が、ほとんどないということです。
もしあの帰り道で、毎回「あそこはこうするべきだった」「今日は全然ダメだったね」と言われていたら。もしかしたら僕は、バスケットを嫌いになっていたかもしれません。
体育館でコーチに言われ、車の中で親に言われ、家に帰ってまた言われる。一つひとつは愛情からの言葉でも、子どもからすると、バスケのある一日がまるごと「評価の時間」になってしまいます。これが続くと、ボールを触ること自体が、しんどさとセットになっていきます。
僕の家には、バスケットを嫌いにならずに済む空気がありました。それが、今もこうしてバスケを続けている理由の一つだと思っています。
もし今、子どもの様子が気になっているなら、帰り道で何を話しているかを一度だけ振り返ってみると、ヒントが見つかることがあります。僕が現場や家で実際に使っている声かけを30個まとめたチェックリストをLINEで無料で配っています。言葉選びに迷った時の手元の一枚として使ってもらえたら嬉しいです。
「好き」は、取り戻せる
ここで一つ、伝えておきたいことがあります。一度嫌いになっても、好きは取り戻せます。
僕自身、高校までかなり厳しい環境でバスケをやっていて、正直、好きかどうか分からなくなっていた時期がありました。大学で環境が変わり、「考えてプレーする」バスケに出会って、そこでもう一回、バスケを好きになり直しました。環境が変わることで気持ちが戻ることを、僕は自分の体で知っています。
スクールにも、そういう子がいます。チームのほうで楽しくなくなりかけていた子が、週に一回、誰にも怒られない場所でボールを触る。それだけで表情が戻ってきて、「ここで褒められたから、あっちでもう一回頑張れる」と言うようになる。チームを辞めるか続けるかの二択の前に、「続けながら、何か一つ変える」という道もあります。
家でできる変化もあります。僕がよく保護者の方に話すのは、質問を一つ入れ替えることです。
「今日、怒られた?」をやめる
代わりに「今日、楽しかったこと一個ある?」と聞く
一個も出てこない日があってもかまいません。その質問を続けること自体が、「この家では、バスケの楽しいところを話していいんだ」という空気をつくっていきます。
子どもの「楽しい」の中身を聞いてみる
もう一つ、僕が現場でやっていることがあります。子どもが「バスケより、ゲームのほうが楽しい」と言った時に、責める前に「お、どこが面白いの?」と聞いてみることです。
楽しいの中身は、子どもによって全然違います。
達成感が好きな子:できる本数が増えていくのが見えると夢中になる
誰かと一緒が好きな子:友達とのパスやゲーム形式で目の色が変わる
自分のペースが好きな子:コツコツ続けた練習を認められるのが嬉しい
その子が何に「楽しい」を感じるのかが分かると、バスケの中にそれをつくるヒントになります。そして何より、子どもは「自分の楽しいを否定されなかった」と感じるので、本音を話してくれるようになります。
「楽しい」は、根性や気合いではなく、ある程度は設計できるものだと僕は思っています。達成が見えて、テンポが良くて、自分で選べる。そういう場所では、子どもは勝手にボールを追いかけ始めます。
よくある質問
Q. 嫌いになったなら、辞めさせたほうがいいのでしょうか?
A. 僕は、すぐに結論を出さなくていいと思っています。嫌いになった理由が「バスケそのもの」なのか「バスケの周りの重さ」なのかで、取れる手が変わるからです。辞めるかどうかで迷っている場合は、辞めたい子と親への記事にも書いています。
Q. 「好きじゃない」と言いながら、練習には行っています。どう見ればいいですか?
A. 行けているなら、完全に嫌いになったわけではないと僕は受け取っています。好きと嫌いの間で揺れている時期かもしれません。この時期に荷物を増やすより、少し減らしてあげるほうが、気持ちが戻りやすいと感じています。朝に行き渋る場合の話は、「練習に行きたくない」の朝の記事にまとめました。
Q. 親が何も言わないと、上達しないのではと不安です。
A. 何も言わない必要はないと思います。僕が気をつけているのは、言う「量」より「場所」です。プレーの話はコーチに任せて、家では楽しかったことや頑張ったことを聞く。役割を分けるだけで、子どもの受け取り方はかなり変わります。
まとめ
子どもがバスケを嫌いになった時、僕が見ているのは次のようなことです。
嫌いになったのはバスケか、バスケの周りに積み上がった「重さ」か
帰り道や家が、毎回「評価の時間」になっていないか
一度嫌いになっても、環境が変われば好きは取り戻せる
子どもの「楽しい」の中身を聞くと、戻り道が見えてくる
長く伸びる子の共通点は、早く上手くなったことではなく、好きでいられる時間が長かったことだと僕は思っています。だから、今の「好き」を急いで重たくしない。少し軽くして、子どもがもう一度自分からボールを持つ日を、一緒に待っていられたらいいなと思います。
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