怪我をすると、時間が止まったように感じます。練習に行けない。走れない。シュートも打てない。仲間が体育館で動いている時間に、自分だけがベッドの上にいる。もしお子さんが今その状態なら、隣で見ている親御さんも、かける言葉に迷っているはずです。
僕は札幌でバスケットボールスクールを3拠点(真駒内・南3条・新琴似)運営し、100名の子どもたちと関わっています。バスケ歴は27年。今日は、僕自身がアキレス腱を切った日と、そこからの時間の話です。
プツンという音を、今でも覚えている
25歳のとき、僕はアキレス腱を断裂しました。プツンという音と、地面に崩れ落ちた感覚を今でも覚えています。バスケットボールが人生のすべてだった僕にとって、それは世界が終わるような出来事でした。
痛みも不安もありました。でも、一番きつかったのは痛みではありません。「自分だけ止まっている」という感覚でした。
周りは毎日練習している。誰かがうまくなっている。自分が戻った時に、前と同じように動けるのか。自分の居場所はあるのか。ベッドの上で、そんなことばかり考えている時間がありました。
先に書いておくと、僕はこれを「怪我から復活した美談」として書くつもりはありません。治療やリハビリの進め方は、怪我の程度によっても人によってもまったく違います。ここに書くのは、僕の場合はこうだった、という一つの体験です。
止まった時に、見えたもの
怪我をしている間、僕は自分の試合や練習を外から見る時間が増えました。
プレーしている時は、自分のことで精一杯です。ボールを持った時にどうするか。ミスしないようにどうするか。でも、外から見ると違うものが見えます。仲間の動き。スペースの空き方。パスが出る前の準備。シュートが外れた後に、誰が最初にリバウンドへ反応しているか。ベンチの声。コートの中にいる時には見えていなかったものが、少しずつ見えるようになりました。
怪我はしたくありません。怪我をした方がいいなんて、絶対に思いません。でも、もし怪我をしてしまったなら、その時間を「見る力」を育てる時間に変えることはできます。ただ試合を眺めるのではなく、テーマを決めて見る。今日はオフボールを見る。今日はリバウンドの入り方を見る。そうやって見ると、動けない時間でも、バスケットの中にいられる感覚がありました。
これは、試合に出られない時期の過ごし方とも重なります。出場時間と成長を切り離して見る話はミニバスで補欠。試合に出られない我が子への声かけにも書きました。
ベッドの上で、頭と心を動かしていた
でも、本当に学んだのはそこからのリハビリの日々でした。一歩も歩けないところから、毎日1ミリずつ前に進む。昨日できなかったことが、今日少しできる。その小さな積み重ねだけが、人を前に運ぶのだと知りました。
体は止まっていましたが、頭と心のほうは動かしていました。あの時期、本をかなり読みました。最初は読みやすい自己啓発本から、そこから経営、社会人としての考え方、バスケットの本まで。大事だったのは、読むだけで終わらせなかったことです。ノートに書く。自分の言葉にする。バスケットに置き換える。今の自分に何が使えるかを考える。
僕はレジリエンスカウンセラーとしても学んできましたが、立ち直る力は、ただの根性では作れないと思っています。気合いで全部を乗り越える。落ち込まないようにする。常に前向きでいる。それだけでは難しい時があります。
立ち直るには、設計が必要です。朝起きたらリハビリをする。昼に本を読む。夜に今日の気持ちをノートに書く。週に一回、できるようになったことを記録する。小さな行動を先に決めておく。気持ちが前向きだから行動できるのではなく、行動が少しずつ気持ちを支えてくれることがあります。
リハビリでは、普段あまり見ない細かい部分にも向き合いました。インナーの筋肉。左右差。逆足。地味で、すぐに成果は出ません。でも僕は、右足を怪我したことで、自分の体を初めてちゃんと見ることになりました。
「前向きに頑張れ」だけでは届かない時がある
もし今、怪我で止まっている子がいるなら、まず伝えたいのは、ずっと前向きでいなくていいということです。
落ち込む日があっていい。何もしない日があってもいい。悔しくて、体育館に行きたくない日があってもいい。焦るのも自然です。
だから僕は、怪我をした子にいきなり「前向きに頑張れ」と言いすぎないようにしています。まずは「悔しいよね」「焦るよね」「今はしんどいよね」。そこからでいいと思っています。
そのうえで、少し落ち着いたら、「今だからできることを一つ探してみようか」と聞く。本を読むでもいい。試合を見るでもいい。リハビリの記録をつけるでもいい。全部をポジティブにしなくていい。でも、その中に一つだけ前に進む行動を作る。その一つが、止まった時間を少しだけ動かしてくれます。
復帰してからも、実は不安定な時間があります。感覚がずれている。一歩目が怖い。また怪我をするんじゃないかと思う。その時に効いてくるのが、怪我中に何をしていたかです。外からチームを見ていた選手は、自分の役割を考えやすい。記録をつけていた選手は、焦りすぎずに段階を踏みやすい。
怪我中にやることは、復帰した瞬間のためだけではありません。復帰後に折れないための準備でもあります。
やがて僕は3x3のプロ選手として復帰し、北海道初の3x3チームを立ち上げ、アジアラウンドで優勝するところまで挑戦を続けました。あの断裂がなければ、今の僕はいません。ただ、正直に書くと、あの時間はもう二度と経験したくない時間です。「怪我が僕を強くした」とは思っていません。あの時間に意味があったとしたら、それは最初からあったのではなく、僕が後から少しずつ作ったものです。
よくある質問
Q. 怪我をした子に、練習を見学させたほうがいいですか?
A. 本人が行きたがるなら、僕は行っていいと思っています。ただし「ただ座って見る」だけだとつらくなる子もいます。僕の場合は、テーマを一つ決めて見るようにしていました。今日はリバウンドだけ見る、というふうに。役割があると、その場にいる理由ができます。行きたくない日は、無理に連れて行かなくていいとも思っています。
Q. 焦って早く復帰したがります。どう止めればいいでしょうか。
A. 復帰の可否は、僕が判断できることではありません。そこはお医者さんやトレーナーの領域です。僕が親御さんに伝えているのは、止めるより先に「何のために焦っているのか」を聞いてみるといい、ということです。試合に間に合わせたいのか、居場所がなくなるのが怖いのか。後者なら、それは体ではなく気持ちの問題なので、対応の仕方が変わります。
Q. 親として、何をしてあげられますか?
A. 僕が一番ありがたかったのは、特別なことをされなかったことです。かわいそうな人として扱われるのが、当時いちばんきつかった。だから僕は、記録を一緒に見るくらいがちょうどいいと思っています。「今日は何ができた?」と聞いて、書いておく。それだけで、止まっているように見える日々に、進んだ証拠が残ります。
まとめ
アキレス腱を切った日に僕が学んだのは、根性でも精神論でもありませんでした。動けない時間にも、やれることは設計できる、ということです。そしてその設計があったから、僕は怪我をした子に、ただ「頑張れ」ではなく、もう少し具体的に話せるようになりました。
挫折は、終わりではありません。挑戦をやめないかぎり、それは次の物語の始まりになります。子どもたちにも、それを背中で伝えていきたい。
止まった時間は、何も進んでいない時間ではありません。復帰した時に、前より自分を理解しているための時間にできます。そしてその設計を一緒に考えられるのが、隣にいる大人の役割だと思っています。
挑戦する子は、環境で決まる。環境をつくるのは、僕たち大人です。
怪我や病気で止まった時間の過ごし方、復帰後の不安との付き合い方は、平日毎朝配信のポッドキャスト「ONE STEP FORWARD」でも話しています。うまくいった話だけでなく、うまくいかなかった話もそのまま話しています。
▶ ポッドキャストはこちらhttps://www.resilienthoops.com/podcast