辞めることは、もう決まっている。子どもと何度も話して、答えは出た。残っているのは、コーチに伝えることだけ。
ところが、この「だけ」が重い。何と言えばいいのか。理由はどこまで正直に話すのか。子どもにも挨拶させるのか。辞める決断そのものより、伝えるほうに気力を使っている方が多いと思います。
僕は札幌の3拠点(真駒内・南3条・新琴似)で、100名の子どもたちを見ているバスケットボールスクールのコーチです。バスケ歴は27年。13年の会社員生活を経て独立しました。そして立場としては、「辞めます」という連絡を受け取る側の人間です。
だから今日は、伝える側の正解を並べるのではなく、受け取る側に何が見えていて、何を気にしていないのかを書きます。それが分かると、伝え方の不安はだいぶ軽くなるはずです。
受け取る側が一番さみしいのは、「なんとなく来なくなる」
辞めると伝えられること自体は、さみしいけれど、困ることではありません。バスケがその子の全部ではない。別のことに時間を使う決断は、いつでも起こりうることです。
本当にさみしいのは、連絡がないまま来なくなることです。
僕のスクールで退会の相談が来るときの流れを振り返ると、連絡が届く頃には、気持ちはもう離れていることが少なくありません。その前に、兆しはあります。欠席が増える。振替が使われなくなる。保護者の方の返信が少し遅くなる。子どもの表情が変わる。それでも、連絡が来るならいいんです。一番つらいのは、兆しのあとに連絡が来ないまま、気づいたら終わっていたという形です。
僕はポッドキャストでも、「やめ方にも育成がある」という話をしました。なんとなく来なくなって、なんとなく終わる。これだと、子どもの中に何も残らない。「ここがしんどかった」「でも、これは楽しかった」「次はこっちをやってみたい」。そうやって自分の言葉で区切りをつけられたら、たとえ辞めても、その経験は次につながります。
伝え方が上手いか下手かの差は、思っているほど大きくありません。大きいのは、「伝えるか、消えるか」の差です。言いづらさを越えて連絡をくれた時点で、受け取る側としては、もう十分なんです。
理由は全部言わなくていい。事実を一つと、感謝があれば十分
次に悩むのが、理由の言い方だと思います。
本当の理由が「コーチの指導が合わない」「出番がなくて子どもが楽しそうじゃない」だったら、それを本人に言うのは、ほぼ無理ですよね。
受け取る側として正直に言うと、理由をうまく説明してほしいとは思っていません。
僕は退会の連絡をもらったとき、「よければ、今後の運営の参考に、理由を教えてもらえますか。無理に引き止める意図ではありません」と聞くようにしています。聞く目的は引き止めるためではなく、次の子たちのために運営を直すためです。だから、言える範囲でいい。
僕がおすすめしているのは、言える事実を一つと、感謝を添えることです。
「本人と話して、他のことに時間を使うことにしました。◯年間、ありがとうございました」。これで足ります。「家庭の事情で」で済ませていい場面もあります。嘘ではなく、全部を言わないだけです。
そこに批判を混ぜないことだけは、僕なら気をつけます。地域のバスケ界は狭い。中学に上がると、同じコーチの子どもと同じチームになったり、別の大会で顔を合わせたりします。去り際に残すのは、不満ではなく感謝のほうが、子どものためになります。
「決める前に相談」と「決めてから報告」、どちらでもいい
受け取る側として一番ありがたいのは、決める前の相談です。僕のスクールなら、回数を減らす、クラスを変える、一度休会する、という選択肢を出せるからです。ミニバスはチームなので、スクールほど選択肢がないかもしれません。それでも「今、悩んでいます」と一言あるだけで、コーチ側の見方も、子どもへの声のかけ方も変わります。
ただ、相談すると引き止められそうで言えない、という方もいると思います。その場合は、決めてから報告でいいです。
「無理に引き止めるつもりはありません」。これは僕が必ず言う言葉です。もし強く引き止められたり、責めるような反応が返ってきたりしたら、それはそのチームの性質であって、あなたの伝え方の問題ではありません。
順番は、最初の連絡は親からコーチへ。そのうえで、最後の練習の日に顔を見て一言。この二段階が、受け取る側としては一番すっきりします。子どもに「自分で言ってきなさい」と連絡の役を背負わせるのは、僕はしません。辞める連絡は大人の仕事です。子どもには、別の役があります。
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子どもの役は、最後の日に「ありがとうございました」を言うこと
連絡は親がする。でも、「ありがとうございました」は、本人の口から言う。そういう終わり方を一度でも経験しておくと、その子はこれから先、習い事でも部活でも、終わらせ方を知っている人になります。
僕がこの話で思い出すのは、スクールを卒業していった子のことです。
その子は、スクールを始めた本当に最初の頃から来てくれていました。最終学年になって自分のチームの練習が本格化して、スクールは卒業していきました。もちろん、いいことです。
その後、ある大会の決勝で、その子がコートに立っているのを見ました。優勝したチームの一員として、自分の役割をやり切っていた。あの時は、なんとも言えない気持ちになりました。心の中で、ずっと拍手していました。
スクールを辞めたからといって、「はい、バイバイ」で関係が終わるわけではない。一度でも関わってくれた子は、僕の中ではずっと気になる存在です。「あの子、今どうしてるかな」と、ふと思い出す。だから会場でその子を見つけると、うれしくてしょうがない。
ミニバスのコーチも、たぶん同じです。終わり方がきれいなら、次に会ったとき、お互いに笑えます。
よくある質問
Q. 辞める理由がコーチへの不満です。正直に伝えるべきでしょうか?
A. 僕は、辞める連絡には乗せないほうがいいと思っています。改善を求めたいなら、辞めると決める前に、相談の形で別に出すほうが届きます。辞める時に出した批判は、チームを変える力をほとんど持たないまま、子どもの印象だけを残します。
Q. LINEで伝えるのは失礼ですか?
A. 僕は、最初の連絡はLINEやメールでもらうことのほうが多いですし、失礼だと感じたことはありません。退会日や月謝、備品の返却といった手続きは、文章で残るほうがお互いに助かります。そのうえで、最後の日に顔を見て一言で十分です。
Q. 子どもが最後の挨拶に行きたがりません。無理にでも行かせたほうがいいですか?
A. 無理には行かせません。しんどかった場所に、もう一度足を踏み入れるのがつらい子もいます。手紙を書く、親が代わりに言葉を伝える、という形でいいと思います。大事なのは体育館に行くことではなく、「ここがしんどかった」「これは楽しかった」と、自分の言葉で区切りをつけることです。それは家の中でもできます。子ども本人が「辞めたい」と言い出した段階の話は、辞めたい子と親への記事に書きました。
まとめ
ミニバスを辞める伝え方に、きれいな正解はありません。受け取る側の僕から見て大事なのは、三つだけです。
連絡をして、消えないこと。理由は全部言わなくていいから、事実を一つと感謝を添えること。そして子どもには、最後の日の「ありがとうございました」という役を残すこと。
辞めることは、関係の終わりではありません。終わり方を見せることは、子どもがこれから何度も経験する「区切り」の、最初の手本になります。そしてコーチの側は、辞めたあとも、その子をずっと気にしています。
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