「家では全然やらないのに、体育館だと違うんです」。保護者の方から、よくそう言われます。逆のこともあります。「前はあんなに好きだったのに、最近つまらなそうで」。同じ子なのに、夢中になれる日と、なれない日がある。その差はどこから来るのか——現場にいると、それがけっこうはっきり見えます。
僕は札幌でバスケットボールスクールを3拠点(真駒内・南3条・新琴似)運営していて、100名の子どもたちと関わっています。バスケ歴は27年。今日は、現場で実際に起きた場面から、「子どもが夢中になる瞬間」を言葉にしてみます。
今週の現場から
今週もResilient HoopsとFOGの現場では、たくさんのドラマがありました。少しだけ、その一場面をお裾分けします。
ある中学生は、身長が低いことに強いコンプレックスを抱えていました。プレーも消極的でした。でも「弱みではなく強みに目を向ける」指導を重ねるうちに、彼はある日「ここで上を目指したい」と自分から言ったんです。
別のミニバスのキャプテンは、周囲の評価とミスの恐怖でバスケを楽しめなくなっていました。たった1回の体験で純粋な楽しさを思い出し、「ここに入りたい!」と目を輝かせてくれました。
もう一つ。普段は「できないことがあると、すぐに拗ねて諦めてしまう」と言われていた子が、まだ届かないレイアップシュートの練習に2時間も没頭したことがあります。誰かに言われたからではありません。外さないから続けたわけでもない。何度も外しながら、外すたびに、また列に並び直していました。その姿に一番驚いたのは、保護者の方でした。
この3つの場面には、共通点があります。どれも、うまくいったから夢中になったのではない、ということです。
夢中は「できた」の一瞬から生まれる
僕は何十年もバスケをやってきて、いまだに「楽しい」と感じる瞬間があります。それは、勝ち負けそのものより、もっと細かいところにあります。
ノールックで出したパスが味方にぴたっと通った瞬間。声も出していないのに味方と動きが合って、きれいに崩せた瞬間。相手の狙いを先に読んでパスカットできた瞬間。競り合いからリバウンドを自分の力でもぎ取った瞬間。この小さな「できた」が積み重なっていく感じが、たまらないんです。正直、点を取った時より、いいパスが通った時のほうが嬉しかったりします。
子どもも、まったく同じでした。夢中になっている子をよく見ていると、その子は必ず、自分の中に小さな「できた」の基準を持っています。「さっきより高く上がった」「今のは体が流れなかった」。他人と比べた優劣ではなく、自分の中の前後を比べている。この基準を持てた子は、外から見て地味な練習でも、勝手に楽しくなっていきます。
しかも、バスケはすぐにはうまくならない競技です。何ヶ月も同じことができなくてもがく時期がある。でも、ある日ふっとできるようになる。「あれ、今の、できた?」という、あの瞬間。だから、最初にうまくいかないのは当たり前なんです。むしろ、その「できない時期」があるからこそ、できた時の喜びが大きくなる。
レイアップに2時間没頭したあの子も、たぶん、外れるたびに何かが1ミリずつ動いていたんだと思います。
夢中を奪うのは、たいてい大人の善意
ここからは、僕自身の反省です。
ある日の練習後、僕は別の指導者に自分からこう言いました。「ちょっと教えすぎ感があります」。その日、僕は子どもたちに分かりやすく伝えようとしていました。足の位置。体の向き。ボールの持ち方。ディフェンスとの距離。次に選べるプレー。気づくたびに言葉を足していたんです。
丁寧だったとは思います。でも練習が終わったあと、引っかかりました。丁寧に教えたつもりだけれど、子どもたちが実際に動く時間を奪っていなかったか。僕の説明を聞くことが、練習になっていなかったか。
一度に3つも4つも修正点を伝えられた子は、何から直せばいいか分からなくなります。1つ目を意識すると2つ目を忘れる。全部を守ろうとすると動きが遅くなる。そして最後には、コーチの顔を見て次の正解を待つようになる。
正解を待っている子は、夢中にはなりません。夢中とは、自分で選んで、自分で試して、自分で確かめている状態のことだからです。大人が良かれと思って渡した情報が、その回路を止めてしまうことがある。「もっと走れ」も同じで、行き先を渡さずに量だけ求めると、子どもは動けなくなります。
だから僕は、練習で「今日はここまで」を先に決めるようになりました。伝えたいことは10個あっても、渡すのは1つ。残りの時間は、口を閉じて見る時間に使う。指導者がたくさん話したことと、子どもが1つ使えるようになったことは、まったく別物です。
夢中の条件は、「安心」だった
子どもが夢中になる瞬間は、いつも「安心して挑戦できる」と感じたときに訪れます。僕たちは、その環境をつくり続けます。
これは精神論ではなくて、現場で何度も再現される事実です。ミスした瞬間に大人が顔をしかめる場所では、子どもはまず「怒られないプレー」を選びます。怒られないプレーというのは、たいてい、失敗しないプレーです。失敗しないプレーには「できた」の発見がありません。発見がないから、面白くならない。面白くないから、続かない。
逆に、外しても誰も嫌な顔をしない場所では、子どもは何度でも同じことを試します。試した回数だけ「できた」に出会う確率が上がる。だから夢中になる。順番はいつもこれです。安心が先で、夢中はあと。技術が乗るのは、そのさらにあとです。
僕が体験会で見ている一番のポイントも、実はそこです。うまい・下手ではなく、その子が失敗を隠さずに出せているか。うまくいかなかった時に、隣の子や大人の顔色を見ていないか。スクール選びで僕が見ている基準は小学生のバスケットボールスクールの選び方にまとめました。
よくある質問
Q. 家では全然練習しません。夢中じゃないということでしょうか?
A. 僕はそうは思っていません。家と体育館では、そもそも「できた」を確認できる条件が違います。家に十分なスペースやゴールがなければ、達成感を得にくいのは当然です。もし何か一つ用意するなら、僕はドリブルより先に別のものを勧めています。理由はバスケ初心者の小学生が家でできる練習に書きました。
Q. うちの子は夢中になるまでに時間がかかります。
A. かかっていい、というのが僕の感覚です。夢中は、火をつけるものではなく、火がつく条件が揃うのを待つものだと思っています。僕が現場でやっているのは、その子が反応した瞬間を覚えておくことだけです。ドリブルには反応しないけどリバウンドには飛び込む、みたいなことが必ずあります。そこを入り口にすると、時間はかかっても入っていけます。
Q. 「楽しい」だけで、上達するのでしょうか?
A. 順番の話だと思っています。楽しい状態の子は、試す回数が圧倒的に多い。試す回数が多い子は、結果的に伸びます。逆に、怖さで動いている子は、量をこなしていても選ぶプレーが狭くなっていきます。楽しさは上達の反対側にあるものではなく、上達の入り口だというのが、現場で見てきた僕の実感です。
まとめ
夢中は、才能でも性格でもありませんでした。小さな「できた」に自分で気づけること、正解を待たなくていいこと、そして失敗しても大丈夫だと分かっていること。この3つが揃った時に、子どもは勝手に没頭します。
だから僕は、子どものやる気を上げようとするより先に、条件のほうを整えるようにしています。うまくさせようとするより、面白がっている時間を邪魔しない。それだけで、あの2時間のレイアップみたいな時間は、けっこう普通に起こります。
挑戦する子は、環境で決まる。環境をつくるのは、僕たち大人です。
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