体育館に響くコーチの怒鳴り声。ミスをするたびに固まっていく我が子。帰りの車で「大丈夫?」と聞いても、「大丈夫」としか返ってこない。厳しい指導のおかげで強くなっている気もするし、このままではバスケが嫌いになってしまう気もする。どっちなんだろう——。
この相談は、僕のところに届く中でも、いちばん答えるのが難しいものの一つです。僕は札幌でバスケットボールスクールを運営していて、100名の子どもたちと保護者の方に関わっています。そして僕自身が、怒鳴られながら育った選手でした。今日は、その経験から書きます。
怒鳴られながら、北海道2位まで行った
僕の中学時代も厳しい環境でしたが、高校は輪をかけて厳しかった。怒鳴られるのが当たり前。そういう時代の、そういう環境でバスケをしていました。
それで弱かったかというと、逆です。チームは北海道2位になり、インターハイにも出ました。結果は出ていたんです。
だから僕は、「厳しい指導では強くなれない」とは言いません。実際に、僕はあの環境で勝ち方を覚えました。でも、今振り返ってはっきり分かることがあります。あの頃の僕は、勝てたけれど、「自分で考えること」をしていませんでした。怒られないように動く。指示されたことを正確にやる。コーチの顔色が、判断の基準でした。
バスケットボールの本当の楽しさと、「考えながらプレーする」ことの面白さを知ったのは、大学に入ってからです。勝てたけど、失ったものもあった。それが、僕の高校バスケの正直な総括です。
厳しさと、怖さは違う
その経験があるから、僕は今、怒鳴らない指導を選んでいます。ただ、誤解してほしくないのは、「怒鳴らない=甘い」ではないことです。優しさと甘さは別物で、僕の現場でも、けじめや基準は妥協しません。遅刻やふざけ、仲間を傷つける言動には、はっきり伝えます。
見分けてほしいのは、「厳しさ」と「怖さ」の違いです。
厳しさは、基準の高さです。要求が高い。妥協しない。できるまでやる。これは子どもを伸ばします。怖さは、罰の予感です。ミスしたら何を言われるか分からない。名前を呼ばれるだけでビクッとする。こちらは子どもの判断を止めます。怖さの中では、子どもは「うまくなるためのプレー」ではなく「怒られないためのプレー」を選ぶようになるからです。
観察するポイントは、シンプルです。ミスの後、その子の次のプレーがどうなっているか。怒鳴られても切り替えて次に挑戦できているなら、その子はまだ大丈夫かもしれない。ミスの後、ボールから逃げるようになっていたら、パスをすぐ手放すようになっていたら、それは「怖さ」が判断を支配し始めているサインだと僕は見ます。
家庭は、もう一つのベンチにならない
コーチが厳しい環境にいる子に、家庭ができるいちばんのことは、家をもう一つのベンチにしないことだと思っています。
体育館で怒られて、帰りの車でも今日のミスを指摘されたら、その子には安心できる場所がなくなります。逆に、家が「何を言っても大丈夫な場所」であれば、子どもは厳しい環境でも、意外と踏ん張れるものです。
帰り道の会話で、僕がおすすめしている聞き方があります。「今日、コーチに何て言われたの?」ではなく、「今日、いちばん楽しかったのどこ?」から入ることです。前者は、怒られた記憶を家まで持ち込ませる質問です。後者は、その日のバスケの中に楽しさが残っているかを確かめる質問です。
すっと答えが返ってくるうちは、バスケそのものはまだ好きでいられている。「……別に」「分かんない」が続くようになったら、楽しさより怖さが上回ってきているサインかもしれません。この問い一つが、僕にとっては子どもの心の温度計になっています。
もう一つ。子どもの前でコーチの悪口を言わないことも、大事だと思っています。親がコーチを否定すると、子どもは「信じて頑張ってきた自分」まで否定されたように感じることがあるし、逆にコーチへの不信を植えつけられて、指導が何も入らなくなることもあります。疑問があるなら、子どもを介さず、大人同士で直接話す方がいい。
そのうえで、です。子どもの表情から笑顔が消えて、食欲や睡眠に影響が出て、「行きたくない」が続くようなら、環境を変えることは逃げではありません。僕は、怒鳴られて結果を出した人間だからこそ言えます。あの方法でしか強くなれないわけではない、ということを。考えることを奪われずに強くなる道は、あります。
よくある質問
Q. コーチに直接「怒鳴らないでほしい」と伝えてもいいのでしょうか?
A. 伝え方次第だと思います。指導の否定から入ると、話がこじれやすい。僕なら「最近ミスを怖がるようになっていて、家でどう支えればいいか相談したい」と、我が子の状態の共有から入ります。まともな指導者なら、そこで一緒に考えてくれます。その入り口すら閉ざされているなら、それ自体が環境を見直す判断材料になります。
Q. 本人は「怒られても平気」と言っています。信じていい?
A. 言葉より、プレーと日常を見てあげてください。平気と言いながらミスの後に消極的になっていないか。バスケの話を家でしなくなっていないか。子どもは親を心配させまいとして「平気」と言うことがあります。言葉と行動がずれてきたら、言葉ではなく行動の方を信じます。
Q. 厳しい環境で頑張り抜くことにも、意味があるのでは?
A. あると思います。僕自身、あの環境で得たものは確かにあります。ただ、それは「心が壊れない範囲で」という条件つきです。理不尽に耐えること自体が目的になってしまうと、失うものの方が大きくなる。頑張り抜く価値がある厳しさか、ただ怖いだけの環境か。それを見極める目は、いちばん近くの大人にしか持てません。
まとめ
怒鳴る指導で、勝てることはあります。僕がそうでした。でも、勝ちながら失っていたものに気づいたのは、ずっと後になってからでした。
コーチを変えることは、親にはできません。でも、ミスの後の我が子を観察することと、家を安心できる場所にしておくことは、今日からできます。体育館で何があっても、帰る場所で受け止めてもらえる子は、簡単には折れません。そして、どうしても心が削られていくようなら、環境を選び直すことも、立派な決断です。
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