子どもがある日、こう言うことがあります。「将来、プロのバスケ選手になりたい」。
この一言に、親はちょっとドキッとしますよね。応援したい気持ちと同時に、心の中で別の声も聞こえてくる。「いやいや、プロなんて、どれだけ難しいか」。その現実的な心配も、すごく分かります。実際、プロになれる人はほんの一握りで、ほとんどの子はプロにはなりません。
僕は札幌でバスケットボールスクールを運営していて、100名の子どもたちに関わっています。自分自身、ずっと上の舞台を本気で目指してプレーしてきました。今日は、「プロになりたい」と言われた時に僕ならどう返すか、という話をします。
否定も、誇張も、しない
まず、僕が気をつけているのは、二つの極端を避けることです。
ひとつは、頭ごなしの否定。夢を口にしたその瞬間に、「現実を見なさい」「そんな簡単じゃない」と、夢ごと潰してしまうこと。これをやると、子どもはもう、夢を口にしなくなります。あとで書きますが、現実を伝えること自体は、否定とは違います。大事なのは、入口で夢を潰さないことです。
もうひとつは、逆の誇張。「あなたなら絶対なれる!」。これも危ない。根拠のない「絶対」は、いつか現実とぶつかって、その子をよけいに傷つけることがあります。
否定でも誇張でもない。じゃあどうするか。僕はまず「いいね、プロになりたいんだ」と、その夢をそのまま受け取ります。叶うかどうかは、いったん脇に置いて。
夢は、確率で測らない
ここが、今日いちばん伝えたいところです。夢の価値を、「叶う確率」で測らないでほしいんです。
たしかに、プロになれる確率は低い。でも、だから意味がない、なんてことはまったくない。「プロになりたい」という夢がある子は、その夢があるからこそ、今日もう一本シュートを打ちます。もう少し早く体育館に行く。苦しい走り込みにも向かえる。
つまり、夢は、叶うかどうかより、「今日の自分を動かしてくれるかどうか」が大事なんです。叶う確率は低くても、今日を動かす力は本物。だから僕は、子どもの「プロになりたい」を、現実の練習を引っぱる最高のエンジンだと思っています。
僕自身、トップの舞台で戦いたくて必死にやってきました。順風満帆じゃなかったし、思い描いた通りに全部が叶ったわけでもありません。23歳でバセドウ病になり、25歳でアキレス腱を切り、それでもコートに戻って、3x3という舞台で北海道初のチームを立ち上げてプレーしました。子どもの頃に思い描いた「プロ」の形とは違ったかもしれない。でも、夢を追い続けたから辿り着いた景色でした。
そして、あの本気でバスケットに打ち込んだ時間が、今の僕をまちがいなく作っています。指導者としての目も、13年の会社員生活を経て自分でスクールを立ち上げる覚悟も、全部あの「上を目指してもがいた時間」から来ている。もし、確率が低いからと早々に夢を諦めていたら、今の僕はいません。夢は、そのままの形で叶わなくても、その人を確実にどこかへ連れていってくれるんです。
優しいだけでは、力にならない
ここまで聞くと、「とにかく夢を肯定して、優しく応援すればいい」と思うかもしれません。でも、僕は、それだけじゃ足りないと思っています。
特に、本気で「プロになりたい」、本気で「自分は今どのへんにいるのか知りたい」という子に対しては、僕は現実も本気で伝えます。今のままじゃ届かないよ、と。目標と今の自分との間に、これだけの差がある、と。そこをごまかして優しい言葉でなでているだけなのは、優しさじゃなくて、ただの甘やかしだと思うんです。
そして、本気なら、いちばん大事なのはここからです。「じゃあ、その差を埋めるために、今、この場所で、何をすべきか」。それを本気で一緒に考える。現実を見せるのは突き放すためじゃなく、本気の夢に本気で応えるためです。
夢を受け止めることと、現実を伝えること。優しさと、甘さ。これは別物なんですよね。
ちなみに、この「現実を伝える」は、家庭では急がなくていいと思っています。差を測って見せるのは、コーチや指導の場の役割です。家庭の役割は、夢を口にしても笑われない場所であること。役割分担でいいんです。親が家でスカウトの目になってしまうと、子どもは家で夢の話をしなくなります。
よくある質問
Q. 具体的に「プロになれるのは何人に一人」と数字で教えるべきですか?
A. 僕は、小学生のうちに確率の数字を突きつける必要はないと思っています。数字は夢を測る物差しにならないからです。それより「プロの選手は、今日どんな練習をしていると思う?」と、夢と今日の行動をつなぐ質問の方が、その子を動かします。
Q. 親としては勉強もしてほしい。夢を応援すると勉強しなくなりませんか?
A. 逆のケースを僕はよく見ます。夢中になれるものがある子は、時間の使い方を覚えます。「バスケのために宿題を先に終わらせる」が成立するんです。夢と勉強を対立させず、「プロを目指すなら、考える力も体の知識も全部いるよ」とつなげてあげる方が、両方が進みます。
Q. 途中で夢が変わったら、それまでの時間が無駄になりませんか?
A. なりません。うまくいかない時にもう一回立ち上がる力。仲間と一つの目標に向かう経験。自分で考えて工夫する力。本気で打ち込んだ時間に身についたものは、次の夢にそのまま持ち越せます。プロという「結果」にならなくても、「過程」で得たものはぜんぶ残る。これは僕の実感です。
まとめ
子どもが「プロになりたい」と言ったら、僕ならこう返します。「いいね。プロになりたいんだ。じゃあ、そのために、今日できることは何だろうね」。
夢を、否定も誇張もせず、そのまま受け取る。本気の子には、時に現実との差も正直に伝える。そのうえで、その大きな夢を、今日の小さな一歩につなぐ。遠い夢と今日の一歩を、行ったり来たりできる子は強い。「プロになりたい」は、現実を知らない子どもの戯言じゃありません。今日を動かす、いちばん強い力です。
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