「うちの子、身長が低いのでバスケは不利ですよね」。保護者の方から本当によく受ける相談です。先に僕の答えを言うと、不利な場面はあります。それでも、身長で決まらない部分は同じくらい残っています。
だから僕は、試合の前に結果ではなく「動作」の約束を3つだけ決めるようにしています。「シュートが上がったら、最初に相手へ触れる」のように、身長に関係なく実行できることです。この記事では、変えられない差との向き合い方と、その約束の作り方、試合後の振り返り方を、札幌のスクールで100名の子どもたちに関わる僕の実感から書きます。
「明日の朝、身長は10センチ伸びない」
練習試合を振り返っていた時、一緒に見ていたコーチからこんな言葉が出ました。
「身長は、明日の朝起きたら10センチ大きくなってほしいと思っても、なっていない」
その日は相手の方が大きくて、リバウンドで押し込まれ、ゴールの近くで高さを使われました。負けた理由を探せば「身長差」という言葉で説明できます。確かに、身長は競技の大きな要素です。そこは、ごまかさない方がいい。
でも、次の日までに変えられないものだけを敗因にすると、子どもは何をすればいいか分からなくなります。あの言葉のあとに続いたのは、変えられることの話でした。リバウンドへ入ること。ルーズボールへ飛び込むこと。走ること。守ること。声を出すこと。高さが変わらなくても、次の試合までに変えられるものは残っているんです。
変えられない理由は、強い。だから危ない
負けたあと、人は理由を求めます。相手が大きかった。速かった。経験が違った。どれも事実の場合があります。そして、変えにくい理由ほど自分を守ってくれるんですよね。「仕方がなかった」と思えるから。
ただ、仕方がない理由だけで振り返りを終えると、次の試合も同じ場所から始まります。
例えばリバウンド。「取れたか、取れなかったか」だけで見ると、小さい子は毎回負けます。でも、シュートが上がる前に相手へ身体を当てたか。ボールが落ちる場所へ一歩目を出したか。取れなくても、相手に簡単な着地をさせなかったか。ここまで分解すると、結果として相手が取った場面にも、その子が「できたこと」と「次に変えられること」が見えてきます。
これは甘い評価ではありません。勝つために、再現できる行動まで解像度を上げることです。
一方で、「気持ちがあれば身長差を超えられる」と言い切るのも危ないと思っています。どれだけ頑張っても届かないボールはあります。そこまで全部を根性不足にすると、子どもは現実の差まで自分の責任だと思ってしまう。現実を認めることと、諦めることは同じではありません。条件が変わらないからこそ、方法を変える余地があるんです。
僕にも、変えられない時間があった
偉そうに書いていますが、僕自身、変えられないものに心を奪われた経験があります。
23歳でバセドウ病になった時、気持ちだけで身体を元に戻すことはできませんでした。25歳でアキレス腱を断裂した時も、次の日に走れるようにはなりません。早く戻りたいと思っても、回復には順番があります。できないことばかり見ていた時期は、本当に苦しかった。
それでも、ベッドの上で本を読むことはできました。ノートに考えを書くことはできた。リハビリで、その日に許された一つに集中することはできた。自分で選べるものを一つ持っていると、変えられない状況の中でも、自分の人生に参加し続けられる。これは、あの時間で覚えたことです。
身長に悩む子に伝えたいのは、まさにここです。身長は、今日選べない。でも、シュートが上がった瞬間に相手を探すことは、今日選べる。転がったボールへの最初の一歩は、今日選べる。今の日本代表にも、決して大きくない身体で世界と勝負している選手がいます。あの選手たちがやっているのは、選べるものを積み重ねることだと僕は見ています。
親子で決める「三つの約束」
具体的なやり方を一つ紹介します。試合の前に、結果ではなく「動作」の約束を三つだけ決めることです。
例えば、「シュートが上がったら、最初に相手へ触れる」「ボールを失ったら、最初の三歩を全力で戻る」「床に落ちたボールには必ず反応する」。ポイントは、全部「身長に関係なく実行できること」で作ることです。「リバウンドを取る」だと相手の高さに左右されますが、「先に触れる」なら、取れない場面でも実行できたかを確認できます。
そして試合のあとは、勝敗や得点とは別に、この三つが何回できたかを一緒に振り返る。できていたら、そこを言葉にして返す。「今日、先に触るの三回できてたね」。これが、身長という変えられない物差しの代わりに、その子が自分の成長を測れる物差しになります。小さい子ほど、この物差しを早く持てた子が、あとで大きく伸びていく。僕は現場でそれを何度も見てきました。
よくある質問
Q. 身長を伸ばす方法はありますか?
A. 僕は指導者であって医師ではないので、「こうすれば伸びる」という断定はしません。睡眠や食事といった生活の土台が成長期に大事だと一般に言われている、というところまでです。僕が言えるのは、伸びるかどうかを親子でコントロールしようとするより、今日変えられる行動に力を使う方が、その子のプレーも表情も変わる、ということです。
Q. 小さいならガードを目指すべきでしょうか?
A. 小学生の段階で、身長を理由にポジションを固定する必要はないと思っています。ミニバス世代は、全部のポジションの動きを経験しておく方が、あとで伸びしろになります。「小さいから○○しかない」ではなく、「小さいからこそ磨ける武器が選べる」という順番で考えたいです。
Q. 本人が「小さいから無理」と言って、辞めたい雰囲気です。
A. まず、その悔しさを否定しないであげてください。実際に悔しい思いをしているのは事実なので。その上で、「変えられないもの」と「変えられるもの」を一緒に分けてみる。紙に書き出すのもおすすめです。変えられる側のリストが埋まっていくと、子どもの目は少しずつ前を向きます。それでも心が折れそうなら、高さより速さや判断を評価してくれる環境を探すのも、一つの選択です。
まとめ
身長差は、あります。ないふりをする必要はありません。でも、明日の朝も同じ身長で立つ我が子が、同じ身体で違う準備をすることはできます。
「相手は大きかったね。簡単じゃなかったね」とまず認める。そのあとで、「次の試合で、自分が変えられる一つは何だと思う?」と聞いてみる。変えられないものを見つめる目から、選べるものを探す目へ。その切り替えを隣で手伝えるのは、毎週いちばん近くで見ている親御さんだと思います。
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