体育館を出たときから、子どもが一言も話さない。スコアボードには、目を逸らしたくなる点差が残ったままだった。車のドアを閉めて、エンジンをかけて、バックミラー越しに後部座席を見る。何か言ったほうがいい気もするし、今は何も言わないほうがいい気もする。
そのまま家に着いて、結局その日の試合の話は一度もしないまま夜になる。
僕は札幌で3拠点(真駒内・南3条・新琴似)、100名の子どもたちを見ているバスケットボールスクールのコーチです。バスケ歴は27年、会社員を13年やってから独立しました。週末に大会がある時期は、月曜のスクールに来る子の顔を見れば、勝ったのか負けたのかだいたい分かります。
僕も、つい「何点差だった?」と聞いてしまう
正直に書きます。スクールの入り口で子どもを迎えるとき、僕が最初に口から出るのは、きれいな言葉ではありません。
「どうだった?」「どこに負けたの?」「何点差くらい?」
録音を聞き返すと、自分でも笑ってしまうくらい毎回同じことを聞いています。先日も、体育館に入ってきた子に「やられたな、どこに負けた?」と聞いて、「4点差」と返ってきていました。別の日には、中学生の子が「最初の試合は50点差くらいつけて勝ったんですけど、次は20点差くらいで負けました」と報告してくれました。
だから、帰りの車で「何点差だったの」と聞いてしまう気持ちは、僕もよく分かります。点差はいちばん分かりやすい情報で、いちばん先に口から出てくる言葉だからです。
問題は、点差を聞くことそのものではなくて、点差の話でその日の会話が終わってしまうことだと思っています。20点差で負けた、という情報だけが残ると、子どもの中には「全部ダメだった日」としてしまわれます。実際には、40分のうちに競り合えた時間も、いいプレーも、必ずどこかにあったはずなのに。
点差の次に、僕が聞いていること
点差を聞いたあと、僕がそのまま続けているのは、だいたいこの2種類の質問です。
ひとつは、相手のこと。「相手、3年生は何人くらいいた?」「大きい子いた?」「どこが強かった?」。先日も、そう聞いた子が「ディフェンスが強かった」と答えてくれました。20点差の話をしていた子は「相手にやられた」で終わりかけていたのが、「相手のここが強かった」まで言葉になった。
もうひとつは、その子のこと。「活躍できた?」「自分で行けた場面あった?」。
この2つを聞くと、点差という一枚の数字が、急に細かい場面に割れていきます。相手が強かった時間と、こっちが戦えた時間が、子ども自身の言葉で分かれてくる。大差で負けた日ほど、この作業に意味があると僕は思っています。負けた事実は変えられませんが、「全部ダメだった」を「ここは通用した」に分解することはできるからです。
そして最後に、僕はよく「次だな」と言います。次の大会の話を一言して、練習に入る。慰めもしないし、掘り返しもしない。負けた日の会話は、それくらいの長さでちょうどいいと感じています。
もし「うちの子との会話がいつも尋問みたいになってしまう」と感じているなら、僕がLINEで配っている声かけチェックリスト30を眺めてみてください。試合後にそのまま使える言い回しを、場面別にまとめています。
「戦えた部分」は、シュートが入ったかで探さない
「ひとつでもいいところを言ってあげてください」と伝えると、多くの保護者が探すのは、得点やシュートが入った場面です。でも大差で負けた試合は、たいていシュートが入っていません。そこを探すと、何も見つからないまま終わります。
僕が見ているのは、点が入ったかどうかとは別のところです。特にこの2つは、点差に関係なく必ず起きています。
ひとつ目は、ミスをした直後のプレー。 ボールを取られたあと、その場で止まってしまうのか、それとも走って戻れているのか。大差がついている試合ほど、ここで差が出ます。戻っている子は、点差の中でもまだ試合をしています。
ふたつ目は、ボールを持っていない時間の準備。 味方がボールを運んでいるあいだに、自分の立ち位置を直せているか。パスをもらえる場所まで動けているか。バスケは40分のうち、自分がボールを持っている時間のほうが圧倒的に短い競技です。だからこの時間の過ごし方は、上手い下手より先に、その日どれだけ試合に参加していたかを表します。
この2つなら、点差がどれだけ開いていても「あの場面、戻ってたね」と名指しできます。
ただ、ここではっきり書いておきたいことがあります。この2つを家で練習しても、大差の試合がすぐに変わるわけではありません。 戻れるかどうか、準備できるかどうかは、技術というより「その場で何を選んでいいと思っているか」の問題だからです。そして子どもが何を選んでいいと思うかは、周りの大人が何を見て、何に反応してきたかで決まります。
点が入った時だけ声が上がる環境で育つと、子どもは点が入る場面しか大事だと思わなくなります。逆に、戻ったことに気づいてもらえた子は、次も戻ります。技術の前に、環境のほうが先に効いてくるというのは、こういうことだと僕は考えています。
ノートに書くのは、親ではなく本人
スクールでは、入会した子にバスケットボールノートを渡しています。使い方はシンプルで、練習の前に「今日は何をやろうかな」と目標を決めて、終わったあとに「何がうまくできたか」「何が足りなかったか」を書く。それだけです。
大差で負けた日にも、これはそのまま使えます。点差は書かなくていい。書くのは、通用したことと、足りなかったことの2つだけ。
大事なのは、これを書くのは本人だということです。親が採点表を作ってしまうと、子どもにとっては家にもう一人コーチが増えるだけになります。僕がやっているのは、子どもが自分で言語化するきっかけを渡すところまでで、その先は本人のものです。
よくある質問
Q. 大差で負けた日、その場で慰めたほうがいいですか。
僕は「なかなか厳しいね」くらいで終わらせることが多いです。20点差の話を聞いたときも、そう返しました。慰めすぎると「かわいそうな出来事」として固定されてしまう気がしていて、事実として受け取って、次の話に移るようにしています。
Q. 子どもが何も話したがらないときはどうしていますか。
聞くのをやめて、時間をあけます。その日の夜ではなく、次の練習の前に「そういえばこの前どうだった?」と聞くと、答えてくれることが多いです。負けた直後は、本人の中でもまだ言葉になっていないだけのことがあります。
Q. 「相手が強かっただけ」と言うのは、逃げになりませんか。
なりません。相手のどこが強かったかを具体的に言えることは、試合をちゃんと見ていた証拠です。「強かった」で止まらずに「ディフェンスが強かった」「あの選手が大きかった」まで出てくるなら、それは次にどうするかの材料になります。
まとめ
大差で負けた日に、うまい言葉を用意する必要はないと思っています。僕自身、子どもたちに聞いているのは「どこに負けたの」「何点差」という、ごく普通の質問です。
違いが出るのは、その次です。相手のことと、その子自身のことを聞く。ミスの後に戻れたか、ボールを持っていない時間に準備できたか、そこを一つだけ名指す。点差という一枚の数字を、場面の集まりに戻してあげる。
そうやって話していると、子どもの中に「うちの親は、点差じゃなく中身を聞く人だ」という感覚が残ります。大差で負けた日の会話がいちばん効くのは、実は次の試合ではなく、その先の何年かにわたる親子の距離のほうかもしれません。
負けた日の声かけに迷ったときのために、僕が使っている言い回しを声かけチェックリスト30にまとめています。LINEで受け取れるので、よかったら試合の帰り道に開いてみてください。