家でボールを触っている時間はやたら長いのに、「今日はドリブルの基礎からやろうか」と言った瞬間に空気が変わる。シュートは何本でも打つのに、その手前の反復練習になると急に集中が切れる。「これ意味あるの」と言われて、うまく返せずに黙ってしまう。
そういう相談を、スクールの保護者の方から時々いただきます。
僕は札幌で3拠点(真駒内・南3条・新琴似)、100名の子どもたちを見ているバスケットボールスクールのコーチです。バスケ歴は27年、会社員を13年やってから独立しました。現場で毎週、基礎練習を嫌がる顔にも、急に食いついてくる顔にも会っています。
そのうえで思っているのは、子どもが嫌がっているのは「地味だから」ではないということです。
嫌なのは地味さではなく、「どこで使うか分からない」こと
大人はつい、基礎練習を「我慢の時間」として説明してしまいます。地味だけど大事だから、つまらないけど後で効いてくるから、と。
でも子どもの側からすると、その説明はほとんど情報になっていません。「後で効く」の後がいつなのか、どの場面なのかが分からないからです。分からないまま同じ動きを20回繰り返すと、それはただの作業になります。作業を嫌がるのは、子どもとしてかなり真っ当な反応だと思います。
逆に、「この練習はこの場面で使う」が具体的に見えた瞬間、同じ練習が全然違うものになるのを、僕は現場で何度も見ています。動きは1ミリも変えていないのに、顔つきだけが変わる。あれは根性が出たわけではなく、意味が見えただけです。
だから僕は、「地味だけど頑張ろう」という励まし方をほとんどしなくなりました。励ましで持つのはその日だけで、翌週にはまた同じところで止まるからです。
僕がスクールでやっているのは、練習の前に理由を言うこと
実際の練習で、僕が何を言っているか。録音を聞き返すと、ドリルの説明より先に「なぜそれをやるか」を言っていることがほとんどでした。
たとえば先日の講義では、ボールを運ぶ練習に入る前にこう言っています。「今日はフロントチェンジしないようにやります」。理由もその場で続けます。相手が前にいる状況で体の正面でボールを動かすと、そこを狙われてカットされてしまうから、と。
別の日の練習でも同じことをしていました。「なんとなくやってしまう切り返しが一番危ない」「意味のない切り返しで、慌ててボールを失うことが多い」。だから今日はこの2つだけでやってみよう、という順番で制限をかけます。そのうえで「全部これでなんとかしてください」と言って始める。
子どもからすると、この一言があるかないかで、目の前の反復の意味が変わります。「やらされている練習」が「自分が今困っている場面のための練習」になるからです。実際、制限をかけた日のほうが、子どもたちの1対1は明らかに粘ります。
ここで大事なのは、技術の中身そのものではありません。その練習が、試合のどの瞬間の、どの困りごとにつながっているのかを、先に言葉にしてあげているかどうかです。
別の練習では、ジャンプの踏み切りを反復したあとに「これを繰り返しておくと、実際にボールが落ちてきたときにちゃんと取れるよね」と言っていました。言っていることは単純ですが、この一文があるだけで、退屈な反復が「あの場面のための準備」に変わります。
「まずゆっくりでいいよ」を先に言う
もうひとつ、自分の録音で毎回出てくる言葉がありました。「まずはゆっくりでいいよ」です。
歩幅とドリブルを合わせる練習でも、切り返しの練習でも、僕は最初に必ずこれを言っています。「コーンまでたどり着かなくてもいいから」と言っていることもありました。
これは優しさのつもりで言っているわけではなくて、速くやらせると子どもが「できなかった」だけを持ち帰るからです。基礎練習を嫌がる子の多くは、地味さよりも「毎回できない自分を確認させられる時間」であることを嫌がっています。最初からスピードを求めると、その時間が積み上がってしまう。
ゆっくりでいい、と最初に言っておくと、同じ10分でも「できた回数」のほうが手元に残ります。残ったものが違えば、次にその練習が出てきたときの顔も変わります。
家でできるのは、教えることより先に聞くこと
ここまで書いておいてなんですが、この「理由を先に言う」は、技術が分かる人にしかできないことではありません。むしろ家庭では、親御さんが説明する必要はないと僕は思っています。
家でできるのは、聞くほうです。
「今日のその練習、試合のどこで使うんだって?」
「コーチ、何のためにやるって言ってた?」
「それができたら、どの場面がラクになりそう?」
この質問がいいのは、答えられなくても意味があるところです。答えられなかった子は、次の練習で自然とコーチの説明を聞くようになります。「家で聞かれるから」という、わりと素朴な理由で。
そして答えられた子は、その場で自分の言葉に変換したことになります。人から聞いた理由より、自分の口から出た理由のほうが、次の反復まで持ちます。
逆に、僕がおすすめしないのは、フォームの指摘を家でも足すことです。体育館で言われたことを家でもう一度言われると、子どもにとっては指摘の総量が倍になるだけで、練習が「評価される時間」に寄っていきます。技術は体育館で預かるので、家では意味のほうを扱ってもらえると、子どもはずいぶん楽になります。
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よくある質問
Q. 理由を説明しても「分かんない」と言われます。
小学生のうちは、言葉で返ってこないほうが普通だと思っています。僕も練習中にその場で答えを求めることはあまりありません。大事なのは説明が伝わったかどうかより、「これには理由があるらしい」という前提が子どもの中に残ることです。それが残っていれば、半年後に自分で結びつけ直します。
Q. うちの子はコーチの説明をそもそも聞いていない気がします。
聞いていないのではなく、説明が始まったことに気づいていない場合が多いです。家で「今日はどんな練習した?」ではなく「今日のコーチの話、最初に何て言ってた?」と聞き方を変えると、次の週から聞く位置が変わることがあります。
Q. 基礎をやらずに試合形式ばかりやりたがります。それでもいいのでしょうか。
試合形式が好きなのは、意味が一番見えやすいからです。僕の練習でも、ドリルのあとに必ず1対1や3対3を置いています。順番としては、試合形式で困る→その困りごとのための基礎、と戻すほうが入りやすい。基礎から入って我慢させるより、困ったところから戻るほうが結果的に早いと感じています。
まとめ
基礎練習を嫌がる子に必要なのは、我慢をさせる言葉ではなく、その練習がどこにつながっているかを見せてあげることだと思っています。
嫌がっている理由は地味さではなく、使いどころが見えていないこと
僕は練習の前に「なぜこれをやるか」と「ゆっくりでいい」を先に言っている
家では技術を足すより、「何のためって言ってた?」と聞くほうが効く
技術だけでは、練習に向かう気持ちは変わりません。変わるのは、意味を確かめてもいい場所があるかどうか。自分で意味を見つけられるようになった子は、大人が横についていなくても練習を続けられます。そこまで行けば、基礎練習はもう「やらされるもの」ではなくなります。
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