ドライブで相手の横まで行けているのに、最後の一歩で自分から離れてしまう。ディフェンスでも、相手に近づいた瞬間に手を引っ込めて、結局ついていけない。試合のあとで聞くと「ファールになるのが嫌だった」と言う。
こういう子は、実はかなり多いです。スクールの保護者の方からも「うちの子、当たるのを怖がっていて」という相談をときどきいただきます。
僕は札幌で3拠点(真駒内・南3条・新琴似)、100名の子どもたちを見ているバスケットボールスクールのコーチです。バスケ歴は27年、会社員を13年やってから独立しました。
ファールを怖がる子を見ていて思うのは、この子たちは乱暴になりたくないのではなく、「どこまでならいいのか」を知らないだけだということです。そして、その線を知らないまま「ファールしないように」とだけ言われ続けると、体を当てること自体をやめてしまいます。
ファールを怖がる子は、真面目な子が多い
最初に書いておきたいのは、ファールを怖がる子に「気が弱い」というラベルを貼らないでほしい、ということです。
僕が見ている範囲では、むしろ逆で、ルールをちゃんと守ろうとする子、人に迷惑をかけたくない子ほど、当たることを避けます。笛が鳴る=悪いことをした、という受け取り方をしているので、笛が鳴りそうな場面から先に逃げるわけです。
これは性格の問題というより、情報の問題です。バスケットでは体がぶつかるのは普通のことで、ぶつかったからといって全部がファールになるわけではありません。でも、その「普通」を体で知る機会がないまま試合に出ると、全部の接触が怖く見えてしまう。
だから僕は、ファールを減らす声かけより先に、当たっていい場面を先に体験させるほうを大事にしています。
僕は練習で「ぶつかっていいよ」を先に言っている
実際にスクールの練習で何を言っているか、録音を聞き返してみました。
ボールをもらう練習では、コーチの僕に向かって「思いっきりぶつけていいよ」と言っています。その理由もすぐ続けていました。体がぶつかるのはバスケットでは絶対に起きることだから、そのときに上半身だけじゃなく、足でコンタクトできるようにしておきたい、と。
ボールを運ぶ練習では、ドリブルしている子の横から僕やペアが押し続けます。「押されるのに負けない」「ずっと同じ方向でいいよ」と声をかけながら、押されても前に進めるかどうかをやる。慣れてきたら、今度は「押される瞬間に力を入れる」「いつ来るか感じて」と、タイミングの練習に移ります。
ここでポイントにしているのは、ぶつかる経験を、笛が鳴らない場所で先に積んでおくことです。練習の中で「当たっても大丈夫だった」「当たられても前に進めた」を何回も体に残しておくと、試合で接触が起きたときに、それが「事故」ではなく「知っている感覚」になります。
1対1の練習でも同じです。ドライブで相手と並んだとき、わざわざ切り返してディフェンスをリセットしてしまう子がいます。そういうときは「並んでいるならそのまま押し込んでいい」「縦に、ぶつかるぐらいの気持ちで」と伝えています。ぶつかりにいって体がちゃんと入った瞬間は、「ナイスコンタクト!」と必ず声に出します。
「ファールしないように」は、許可のあとに言う
もちろん、なんでも当たっていいわけではありません。僕も練習で「プレッシャーかけていいよ、ファールしないようにね」と言うことはあります。
ただ、言う順番は決めています。先に「かけていいよ」、そのあとに「ファールしないように」です。
この順番が逆になると、子どもの頭に残るのは「ファールしないように」だけになります。大人は注意のつもりで言っていても、子どもからすると「近づくな」と同じ意味に聞こえる。そうなると、ディフェンスでは手を引っ込め、オフェンスでは最後の一歩で離れる、というさっきの動きになります。
先日のゲーム形式の練習では、ドライブで強く当たっていった子に「ファールっぽいね、でもいいよ、ナイスドライブ」と声をかけていました。
ファールかどうかは、その場で線を確かめればいいことです。でも、強く行こうとしたこと自体は、線の外ではなく中にある。そこを分けて伝えないと、子どもは「強く行く=怒られる」と結びつけてしまいます。僕は、ファールになった1回よりも、その手前で自分から体を当てに行った一歩のほうを先に拾うようにしています。
家でできるのは、笛より先に「行けたこと」を聞くこと
技術的な体の使い方は、体育館で預かります。家でコンタクトの練習をしてほしいとは、僕は思っていません。
家でできることがあるとしたら、試合や練習のあとの聞く順番だと思っています。
「ファールになっちゃったね」より先に、「あそこ、自分から行けたね」
「なんで当たったの」ではなく、「当たったとき、どんな感じだった?」
笛が鳴った場面は、子どもが自分から話したときだけ一緒に振り返る
ファールを取られた日、子どもはたいてい自分でそれを分かっています。そこに親からもう一度同じ指摘が来ると、「当たると2回言われる」という学習になってしまう。僕が家庭にお願いしたいのは、指摘を減らすことより、先に拾ってもらう場所をひとつ用意しておくことです。
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よくある質問
Q. ファールが多くて退場してしまう子もいます。それでも「行っていい」と言っていいのでしょうか。
ファールが多い子と、ファールを怖がる子は、困っていることが逆です。多い子には線を具体的に教える必要があります。ただその場合も、「当たるな」ではなく「手じゃなくて体で、足を動かして」のように、代わりにやることを言うようにしています。行く気持ちは残したまま、やり方だけを変えるイメージです。
Q. 体が小さいので、ぶつかったら怪我をしないか心配です。
心配はもっともだと思います。スクールでは、まず歩くスピードで押し合うところから始めて、慣れてからスピードを上げています。いきなり試合の強度でやらせることはしません。体格差が大きいペアは組み替えています。気になることがあれば、コーチに直接伝えてもらうのが一番安心です。
Q. 本人が「当たるのが嫌」とはっきり言います。無理にやらせたほうがいいですか。
無理にやらせる必要はないと思っています。嫌だと言えている時点で、その子は自分の感覚をちゃんと言葉にできています。まずは「押されても前に進めた」のような小さな経験を練習で積むところからで十分です。怖さは説得では消えませんが、「大丈夫だった」の回数で少しずつ小さくなります。
まとめ
ファールを怖がる子に必要なのは、ファールを減らす注意より先に、当たっていい場所があるという安心だと思っています。
ファールを怖がる子は、気が弱いのではなく「どこまでいいか」を知らない
僕は練習で「ぶつかっていいよ」を先に言い、注意はそのあとにしている
家では、笛が鳴った場面より先に「自分から行けた一歩」を拾ってもらえると助かる
技術や体の使い方は、練習で少しずつ身につきます。でも、それを試合で出せるかどうかを決めるのは、「当たっても、ちゃんと見てくれている人がいる」と子どもが思えているかどうかです。体育館と家の両方にその感覚があれば、子どもは最後の一歩を、自分から踏み込めるようになります。
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